嘘婚―ウソコン―
人形のように整った顔立ちは、怒りの形相をしていた。

(怖ッ…)

顔立ちが整っている分、迫力がすさまじい。

こう言うのを、“鬼気迫る”と言うのだろう。

自分がここにいることが彼女に見つかったら、何を言われることやら…。

千広は自分の心臓が早く動いたのがわかった。

しかし、彼女はよほど怒っていたのか電信柱に隠れている千広に気づくことなく、通り過ぎて行った。

「何なんだ、あれは…」

千広は電信柱から顔を出して、すでに見えなくなった彼女の背中を見つめた。

「何だ、そこにいたのかよ」

視線を向けると、陽平がいた。

「きたんだったら声かけてくれればいいのに」

陽平は大げさに息を吐いた。

「…お話をしているところを邪魔したくなかったから、隠れていたんです」

千広は言い返した。

「お話ねぇ…。

そう言うほどでもないんだけど」

陽平は困ったなと言うように息を吐いて、手を額に当てた。
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