嘘婚―ウソコン―
そして、青ざめた。

人形のように整った顔立ちが怖い。

だんだんとひいて行く汗に、千広は今の季節を疑った。

今は夏のはずだ…。

なのに、どうして汗がひいているのだろう…?

「私、森川友美と言います」

友美の形のいい唇が音を発した。

千広は恐怖のあまり、言葉を返すことができない。

怖い…。

怖い…。

逃げたい!

逃げたいけど…千広の脚は、恐怖を感じていると言うようにガタガタと震えている。

「――ああ…うっ…」

震える唇を開いて、発した音は訳がわからない。

友美はニコッと笑って、
「そんなに緊張なさらないでください。

私、あなたとお話がしたいんです」
と、言った。
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