嘘婚―ウソコン―
あの時もそうだった。

見合い相手につきあってる男はいないから安心しろと、父親は言った。

だからした。

相手の女と会った。

結納まで交わしたと言うのに、彼女は逃げた。

自分が心に決めた男と一緒に。

「あの方は仕方なかったことだよ。

まさかつきあっていた人がいたなんて知らなかったから」

父親が言った。

(知らなかった?)

陽平はそう言い返したくなった。

そんな一言で問題が済むんだったら、苦しまなかった。

自分と両親に土下座して謝っていた相手の両親の顔を思ったら、陽平はため息が出てしまいそうになった。

――本当に申し訳ありませんでした!

――私たちの不注意のせいで周様ご家族にご迷惑をかけてしまって!

こちらが何度慰めても、相手は土下座をしているその顔をあげなかった。
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