嘘婚―ウソコン―
それから、お見合いは陽平のトラウマになった。

娘が駆け落ちしたことをただひたすら土下座して謝っていた彼女の両親が今でも忘れることができない。

悪いのは娘のはずなのに、両親はまるで自分のことみたいに何度も謝っていた。

…謝るはずの当人がいない以上は仕方ないことだったかも知れないけど。

「陽平も早く幸せになって欲しいと思ってるんだ。

彼女のことを忘れて、陽平は自分の幸せを見つけて欲しい」

(…幸せ、か)

そう言えば、5年前も父親は同じセリフを言っていた。

幸せになって欲しい、と。

子供の幸せを願うのは、親として当然の役目だ。

余計なことをするのも、親として当然の役目のことである。

だけど、自分の中でやっと癒えてきた傷をひっかき回すのだけは止めて欲しい。

陽平は痛み出した傷を隠すように、水を口に含んだ。
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