嘘婚―ウソコン―
(――いっそのこと、辞めてしまった方がいいかも…)

千広は息を吐いた。

自分には接客業が向いていないことがよくわかった。

ひきつったような笑顔もできない。

客に緊張するなと言われたうえに、笑われてしまった。

「工場のバイト、何で受からなかったんだろう…」

バイトの求人情報にあったパン工場のアルバイトを千広は思い出した。

機械の隣に立って、それが動いているかどうかの確認をするだけの簡単な仕事だ。

何より、パンが無料でもらえると言う特典つきである。

両方履歴書を出して応募して面接を受けた結果、こっちが合格したのである。

それで今に至ると言う訳なのだが、
「ホントに向いてない…」

千広の気持ちは下がって行く一方である。
< 28 / 333 >

この作品をシェア

pagetop