嘘婚―ウソコン―
「もしかしたら周のヤツも小田切と寝たから仕事がもらえたのかもな。

才能を見込まれたからどうこうっつーよりも、小田切のお気に入りになったからあいつも仕事がもらえたうえに事務所もパリももらえたんだろうな」

「おい、その言い方はないって…」

毒づくように言う亀山をなだめる寺脇だが、その顔は完全に笑いをこらえている。

２人は、千広がすぐ近くにいることにまだ気づいていないらしい。

千広はギュッとタートルニットのすそを握った。

「それか、財閥の力ってヤツ？」

「おいおい、それはなおさらないわー」

我慢できなくなったのか、２人は笑い出した。

ガタン！

千広は店内に響くように、わざと大きく椅子を引いた。

その音に多くの視線が千広に向けられた。

当然、亀山と寺脇の視線も。

初めて千広の姿を見た２人は、ギョッと驚いた顔をした。
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