嘘婚―ウソコン―
千広は唇を動かした。

「“大切な人へのクリスマスプレゼント”。

ネックレスにタイトルをつけるなら、そう名づけるって彼が言ってました」

そう言った千広に、彼女の目が見開いた。

「大切な、人…?」

静かに動いて、音を発した唇。

彼女の目が、潤んで行く。

少しずつ、彼女の目に水がたまる。

やがてたまった水は、彼女の頬を伝って…流れ落ちた。

彼女は静かだった。

自分が泣いていることに気づいていないと言うように。

千広はコートのポケットから花柄のハンカチを出した。

「大丈夫ですか?」

涙を流している彼女に、ハンカチを差し出した。

ハンカチを差し出した千広に、彼女は気づいたと言うように頬に手を当てた。
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