嘘婚―ウソコン―
彼女は、コクリとうなずいて答えた。

それから目を隠していたハンカチを退けると、
「ねえ、お嬢ちゃん」

千広を呼んだ。

彼女は名前を知らないから、“お譲ちゃん”と呼ばれるのは仕方がない。

彼女は店頭のネックレスを指差した。

「店頭にあるこのネックレス、在庫ある?

私の安月給でも買える?」

自分で安月給と言った彼女に、
「安月給って…」

(自分で言うんかい…)

千広は苦笑いをするしか他がなかった。

千広はやれやれと言うように笑うと、
「在庫はまだあります」
と、言った。

彼女の顔が明るくなる。

「お姉さんの給料でも、ちゃんと買えますよ?

一括でもローンでも構いません」

そう言った千広に、
「そこは一括でお願いします」

彼女が返した。
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