嘘婚―ウソコン―
――誰だ、お前?

その問いに千広は怒りそうになったがこらえた。

今ここで怒ったら話にならない。

「小堺です、小堺千広です。

あなたに籍を入れられた、小堺千広です」

何だ、もう知ってしまったらしい。

思ったよりも早かった。

気づいたのか、誰かに聞いたのか。

そう思いながら、陽平は息を吐いた。

「それで、何?」

「今すぐ離婚してください」

千広が言った。

「離婚って、何で?」

「何でって…あなたのせいでこっちは迷惑がかかっているんです。

戸籍を見たら夫の欄のところに知らない人の名前があったものですから、何事かと思いました!」

千広が早口で捲し立てた。

これは相当なまでに怒っているなと、陽平は思った。
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