嘘婚―ウソコン―
テーブル席で楽しく談笑をしていた客と調理していた大前が驚いた顔でこちらに視線を向けた。

「あっ…」

業務中だったことをすっかり忘れていた。

「何でもないです、何でもないです」

呪文のように同じ言葉を口にしながら千広は首と手を横に振った。

大前は困ったように苦笑いを浮かべると、業務に集中した。

後で何か言われるなと、千広は覚悟した。

その原因を作った陽平に視線を向けると、おもしろくて仕方がないと言うような顔をしていた。

けど、笑わないように噛み殺している。

無理して我慢しなくても結構だ。

こう言う時は大いに笑ってくれた方がすっきりする。
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