嘘婚―ウソコン―
しばらく歩いていたら、駅が見えてきた。

いよいよだと思うと、緊張がますます高まってきた。

(――落ち着け、落ち着け…)

千広は何度も自分に言い聞かせた。

「じゃあ、もう駅につくから」

駅の看板を見ながら、千広は言った。

「じゃ、頑張ってね」

「バイバーイ」

電話を切ると、バッグに戻した。

代わりに財布を取り出すと、その足で切符売り場に向かった。


同じ頃、陽平は人通りの多い交差点を歩いていた。

忙しい父親と食事をすることは滅多にない。

夕方と言うこともあってか、さらに人が多かった。

サラリーマンやら学生やら買い物帰りの主婦やらと、いろいろな人でごった返していた。

ぶつからないように、陽平は人と人との間をぬうように歩いた。
< 9 / 333 >

この作品をシェア

pagetop