嘘婚―ウソコン―
「ええ、偉いですよ。

財閥の御曹司なんて、うらやましい限りです」

そう言った千広に、
「…フン」

陽平は息を吐いた。

偉い、か。

確かに、そうかも知れない。

けど、偉いから何なんだって思う。

どんなに偉くても、欲しいものは手に入らない。

どんなに金持ちでも、欲しいものは手に入らない。

陽平が黙っている。

彼のことだから、絶対何か言い返してくると思ったのに。

千広は肩透かしをくらわれたような気持ちになった。

「周さん?」

千広は呼んだ。

彼女に呼ばれ、陽平は我に返って笑った。
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