林檎とモノクロ





彼女は、弱音をはかない人だった。


家族にも、友達にも、とくに、慶太にも。


それほど強かったということだけど
逆にいえば、たくさん、1人で悩んで、苦しんでいる。





林檎は、前、一度だけ、亮太に弱音を吐いたことがあった。

慶太とのことだった。



何回も、彼女は傷ついている、と思う機会はあった。

しかし、彼女が実際に弱音を吐いたのはその一回だけだ。





「慶太さん、浮気してるかもしれない」


涙をいっぱい目に溜めて、林檎は絞りだすように言った。


「なんで」


「‥見ちゃったの、一昨日、二人で‥‥」



止まらなくなった涙を林檎は何度も何度も拭った。


「やだ、人前では泣かないって決めたのに‥‥っ」








『林檎は強いからな、絶対尻に敷かれるな、俺も』




誰だ?誰が、彼女が強いって言った?

彼女は弱くて
弱くて
誰よりも傷ついて
1人で推し殺して
どうしてわかってやらないんだ?
おまえに何がわかるんだ?




俺なら
分かってやれるのに


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