林檎とモノクロ
俺なら
俺なら、彼女の苦しみにも気付けるのに
分かってやれるのに
彼女の涙を拭えるのに
こうして
今も
「あ‥」
彼女が呟く
指先が、林檎の頬に触れた
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
好きなんだ
彼女が好きだ
ずっとずっと好きだった
どうして
どうして俺じゃだめなんだ
兄貴に見せないような顔もたくさん知っている
どうして
どうして‥‥っ
「亮太く‥‥‥」
俺は、彼女を抱き締めた
すごく小さく
暖かく感じた
切ないほど巡るこの感情を、俺はどうすることもできなかった。
そして、何も言葉には出せなかった
「泣いてるの?」
彼女は俺に尋ねた。
彼女は
ずっと兄貴を見ていた。
ずっと見つめて、追い掛けていた。
そんな“彼女”に
俺は心を惹かれた。
好きだと思った。