林檎とモノクロ
亮太は、
林檎を腕から離した。
顔は見せなかった。
「兄貴には、聞いたのか」
「え‥?」
「兄貴に、浮気しているか、聞いたのか」
「聞いてないよ‥」
「じゃあ、今すぐ聞いてこい」
もちろん、彼女は戸惑った。
「えっ‥でも」
「今なら大学にいるだろ、すぐにだ、ちゃんと直接話してこい」
「亮太くん、そんな」
「はやくしろ!!!!!!」
大声で、怒鳴った。
彼女に背を向けたままだったが、彼女が驚いていることは分かった。
彼女は何もいわず、急いで家を出ていった。
玄関のドアをしめる音が、家に響き渡る。
慶太のことも、亮太はよく分かっていた。
彼は決して浮気などをしない人間だ。
彼女をどれだけ本気で愛しているかを知っている。
2人は、
最高にお似合いだった。
兄貴にはかなわないと思った。
「幸せになれよ」
亮太は呟く。
届かない
言えない
彼女への想いは、
雨の音に溶けた。