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「はい?」

「あんまり無理すんなよ。」

「え?」


その間抜けな声には一切反応せずに、齊藤は廊下を歩き出した。
さっき駆けつけてくれた時に確認していた教室に戻ったのだろう。
それにしても…


「優しいんだか意地悪なんだか分かんないなー…あの人。」


口は悪いし、子どもたちがいない場所では(というか二人っきりのときは)絶対に『お前』って呼ぶし、人の失敗を本人の前で掘り返すし…


「基本は嫌な奴なんだよ…もう。」


でも…と思い返してよぎるのは今のやり取りだ。
すっと本を拾って戻す。そんな些細な動作だが嫌々やっているという感じはしなかった。
それに、給食袋探しも日直の仕事の合間に手伝ってくれるらしい。


「だったらいつも優しくしてくれたっていいのにー。」


誰もいない教室だからこそ零れた呟きだった。


「とりあえず昇降口まで行くかな。」


ちょっとずり下がってきたジャージを膝までたくし上げ、もう一度気合いを入れ直す。
昇降口までの道を、廊下の隅々までしっかり見ながら歩き出した。

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