殲-sen-
さっきまで人の気配なんてなかったのに…



頭でそれをすぐに理解し、起きようと必死に意識を浮上させる。

その間、音は次第に大きくなり近付いていることが分かる。

足音は私の近くでピタリと止んだ。

「……殺されたいのか。」

低く地を這うような男の人の声がした。

その声を聞きながらも自分の状況がまだ認識できず、ぼんやりとしていると突然ガッと襟元を掴まれる。

「…ぐっ。」

苦しくて思わず眉を顰める。

ゆっくりと目を開けると、そこには一人の青年がいた。

「……っ?」

男の人は私の顔を見ると少し驚いた顔をして、スッと掴んでいた手を離した。

「ゴホッゴホッ…」

むせ返りながら青年を見る。

青年は薄暗くてハッキリとしないが、金のような明るい髪色で、赤い目をしていた。

その外見の奇異さに思わず息を飲む。
自然と後ずさる。


彼は大丈夫なのだろうか。


見た目だけで判断すると決してそうではない気がする。


至近距離で黙ったまま見つめると、徐ろに青年は口を開いた。

「お前……一般か。」

「……え。」

一般ってなんだろう。

青年の言葉の意味が分からす訝しげな顔をする。

「それに……運の悪い方か。」

青年は少し面倒くさそうな口調になる。
彼の口振りから、私の境遇について何か知っているようだ。

それに話し方こそ強い口調ではあるが、思ったより普通で肩の力が少し抜けた。


…この人はもしかしたら助けてくれるのではないだろうか。そんな期待を抱いてみる。


まず一番に聞かなければならないことを聞く。

「えっと…ここは何処ですか?」

恐る恐る聞いてみると、青年は真顔で答える。

「…今は知らないほうがいい。」

「‥え?」

一体どういう事なのだろう。訳がわからない。

「知らなかったら、帰れないじゃないですか…。」

少しムキになったが、相手に面識がなく、まだ安全かも分からないので下手に出る。
私が恐る恐る言っても、青年は顔色ひとつ崩さないまま。

「……教えても理解しないだろう。いずれ分かるというのに、今教える必要もない。」
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