殲-sen-

青年が指さした方向は再び山の中を走らなければならなかったが、今度は先程より少し気持ちが楽になった。

人に会えたことと、これから行く場所には何故か同じ境遇の人がいるということ。
それが今の私を支えている。

村を抜け山の中に入ると、そこは依然として月の光が殆ど差し込まず不気味で薄暗かった。

木々のざわめきにさえ少し怖くなるけど、無心に走って何も考えないようにする。




少し走った後、森の中にポツリと今にも壊れそうな木造の建物があった。大分手付かずの小屋のようだ。

森の木々はその周りには生えていなく、月の光が建物全体をやんわりと包んでいる。

不気味なところに居たせいか、その光景が少し神秘的で、そこだけが聖域かの様に見える。








「……あった。」

青年の言っていたのは此処のことだろう。

外装を見ると村にあった先程の建物に比べ、随分と傷んでいる気がする。

壁の木の所々にカビが生え、腐敗も進んでいる。
先程の建物も木造ではあったが、少し手の加えられたような感じで、ここまでではなかった。

向こうのほうが人の住みやすい建物なのに…。

少しずつその建物に近づくと、次第に人の声が聞こえてきた。

「――――…。」

…声から推測するに若い男性と中年の男性が話しているのだろうか?

玄関の前まで来ると、スゥっと一度深呼吸してからドアをノックした。
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