殲-sen-
「はぁ…結構いいとこまで行ってたんだけどな。」
いい所まで、とはバンドのことだろう。
檜山さんは盛大な溜め息をつき、その後に張り詰めた空気を緩めるように軽い口調で言った。
檜山さんは今絶大な人気のバンドのヴォーカルだったんだ。
無念で仕方ないだろう。
きっと心の中ではどうしようもない気持ちでいっぱいなんだろうな。
田代さんもあまり顔を出さないようにしているが、少し悲痛で歪んでいるように見える。
それが事実なら先程までの男性陣の曖昧な態度にも頷ける。
何かおかしいことがあっても、そこまで反応がないのはきっと此処を死後の世界か何かだと思っているのだろう。
彼らにはそう考えるしかない。
でも…私たちは…?
死ぬようなことは何一つしていないはずだ。
そこで引っかかる。最初に出会った青年の言葉。
「私たちは…不手際。」
そう呟くと全員が一斉にこちらを見る。
「私…此処に来る前に一人、話した人が居たんです。」
皆驚いた顔になり、問い詰められた。
「それって、普通の人なの!?大丈夫だった!?」
まず田代さんが身を乗り出してきた。
私の身を案じてのことだろう。
その場を落ち着かせるように丁寧に言葉を紡ぐ。
「…大丈夫でした。
見た目は金髪で赤い眼で雰囲気が怖かったけど、普通に会話できました。」
何事もなかったのに、檜山さんは神妙な顔つきで、
「ここに居るのはあいつらみたいなのだけじゃねぇってことだな…。
で、そいつはどうしたんだ?」
「此処への道を教えてくれました。」
そういうと、周りの反応は様々だった。
檜山さんは考え込むような素振りを取り、田代さんは表情を固くする。
由実は表情がパアッと明るくなる。
「え!?それっていい人なんじゃないのかな?」
由実が嬉しそうにする。
「…でも、それだけで助けてくれるって感じではなかったし…。
その時に言われました。
私は不手際があって連れてこられたんだって。
ここから抜ける方法は皆と合流してからだって…。」