殲-sen-
「俺はそこで…
『人ならざるもの』を見た。
いや、襲い掛かられて死に物狂いで逃げたんだ。」
「それは…どのようなものなんですか?」
思い出しているのか、檜山さんは未だ顔色の優れないままで少し黙った後、
「――――腕しかない化け物と頭無しの皮がズル剥け奴がいた。」
「…そんな。」
いくら別世界だって言っても、そんなものが存在するのだろうか?
いや、ここだからそうなのだろうか?
檜山さんは、手で口を覆うと話を続けた。
「腕の奴は胴体と繋がる所からは骨肉が見えて…。頭の奴は…言いたくも無い。
今思い出しただけでも気持ち悪くて吐きそうだ。」
檜山さんは軽く吐き気を抑えている。
その場には今迄で一番重い空気が流れた。
「それに…檜山さんは襲われたんですね?
どうやって逃げ切ったんですか?」
「必死に走って建物の外に出た。
んで、腕の奴は消えて…。
関節の奴はその後も結構追ってきたけど、そのうちに消えた。」
その時はあまり意識していなかったけど、外に出れる奴とそうでない奴がいるのかもな。
と、檜山さんは付け足す。
檜山さんは頭の回転が良い方なのかもしれない。
彼は自分なりの解釈を頭の中で纏めようとしていた。
「…とりあえず。この世界は異常だ。
此処で重傷を負えば何が起こるかわからない以上、無闇にあいつ等に遭遇すべきじゃない。」
檜山さんは深いため息をつき、
「だからと言って、此処から全く出なければ一生此処にいる可能性だってある。」