殲-sen-

少しの沈黙があった。


フッと、諦めたようなほっとした様な、それでいて自分を情けなく思っているような表情を浮かべた檜山さんは、

「…分かった。」

それだけ言って了承してくれた。

彼の表情は依然として優れない。それどころか先ほどよりも険しい顔つきになっている。

檜山さんに重荷を背負わしてしまっただろうか。

檜山さんの表情に浮かぶ責任の色を見て、気持ちが揺らいだが、思い切り自分を奮い立たせて励ます。


大丈夫。自分を強く持て。

檜山さんの役に立てるように。

すると、田代さんが申し訳なさそうに、

「ごめんね…役に立たないおじさんで。」

「いえ、田代さんが此処に残ってくれるおかげで安心して此処に戻って来れます。」


そう笑顔で言うと田代さんは、

「何があっても二人は守るからね。」

固い意志を伝えてくれた。


由実を見ると、彼女は未だ納得していなかった。

「やだぁ…。」


そう小さい声で何回も呟いている。
…これは、重症だな。


「由実…。」

由実の正面に座りなおすと、肩に手を置く。

由実は濡れた瞳をゆっくりと希咲のそれに合わせる。

「絶対…此処に戻ってくるから、心配しないで。」

やさしく告げるが、由実は首を横に振る。

「やだ。希咲ちゃんが居なくなっちゃう…。」

「由実っ!」

強い口調で名前を呼ぶと、由実の体がビクッと震える。

周りの温度が低くなった気がした。

「そんなこと、言ってられる状況じゃないことぐらい由実なら分かるでしょ?」

諌めるように言うと、由実は更に顔を歪める。

「でも…。」

ヒッと泣きながら嗚咽を漏らす由実に、一呼吸置いて話す。

「ねぇ…私が由実を裏切ったことあった?」

最初と同じように優しい口調で。

由実はそれに強く反応する。
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