殲-sen-



檜山さんは優しい口調で、

「俺だって怖い。吐き気だって治まっちゃいねぇけど、此処まで来たんだ。もう諦めてる。」


だけど、と続ける。


「お前は諦めるべきじゃない。
今からでも遅くは無い。帰れよ。

最初からお前が来ること許さなければ良かったな。
これは、俺の甘えだった。

悪かった。」



申し訳なさそうに檜山さんは言う。


うっ、と涙が出る。
優しくされると甘えが出る。


でも、行かなきゃいけない。

「いえ、行きます。絶対。」

「馬鹿か。早く帰れ。」

「嫌です。」

涙でボロボロになっても檜山さんを睨みつける。
弱い私は眼で訴える。



長い沈黙があった後、

「……強情なんだな。」



もういい、というように檜山さんは一番近くの建物に向かって歩き出す。

玄関前まで行くと、


「来たいなら来い。だけど絶対俺の後ろに居ろ。
…俺に何かあったらなりふり構わず逃げろよ。」


いやです…、そう答える前に玄関の戸を開ける音で掻き消される。

檜山さんは慎重な様子で中に入っていき、私に目線を送る。
私も檜山さんに倣って入る。
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