殲-sen-
「お帰りなさい。よかったよ皆無事で。」
居間に行くと田代さんがずいぶんと安堵したような表情を浮かべた。
ふと、彼の手元に視線を移すと、はたきが握られていた。
「田代さん…それ。」
すると、田代さんはにこりと笑って、
「ん…ああ。
君たちが帰ったときまでに此処が綺麗になるようにって掃除してたんだよ。」
そういって、近くのものを叩く田代さんを見て、
「そんな気を使っていただかなくても…。」
恐縮しながら言うと、今度は苦笑いをされた。
「僕は此処にいなきゃいけないから何も出来ないでしょ?
これ位しておかないと落ち着かないんだよ。
まぁ、それだけじゃなくて此処には何かあるかもしれないし、調べようと思って・・・。」
なんて声をかけていいか分からず、由実をちらりと見ると、由実も同じような顔をしていた。
その様子を見かねた檜山さんは溜め息を一つついた後、
「お前らは此処にいて、守ってる。それだけで十分だと思うが…。」
自覚しろとでも言うような非難めいた目で訴えられ、二人とも慌てる。
しかし、その表情はいくらか柔らかくなっていた。
此処を守る使命を持っている。そう思えば少しは気が楽になるのだろう。
田代さんにくっ付いていた夕君は不思議そうにその様子を見ていた。