殲-sen-
「あ、そういえば。」
由実が思い出したように呟いた後、私に向かって言う。
「お風呂、出来てるよ。」
「ん…ありがとう。」
そういえば言ってたな。
「汗掻いたなら今入ってくる?
着替え…嫌じゃなければ此処にあったから。」
あ、そういえば着替え。
考えてなかった。
由実が言っていたそれは、誰かが着た物だろう。
少し眉に皺を寄せる私に、由実が付け足したように、
「着替えね、すごく綺麗だったの。誰も着てないみたいに。」
それはそれでおかしいのではないのか。
此処の謎は深まるばかりだが、綺麗なのは都合がいい。
「…じゃあ、入ってこようかな。」
ちらりと皆を見ると、田代さんはどうぞという顔をして、檜山さんは興味のなさそうに何か考え込んでいる。
夕君は特に話を聞いていなかったみたいで、田代さんに話しかけていた。
…行ってもよさそうだよね。
その場の雰囲気を見てそう判断すると、
「んじゃあ…行ってきます。」
と言って、由実に案内してもらいながら居間を出ていこうとしたとき、檜山さんが声をかけた。
「…何かあれば叫べよ。
後、お前が出たら話を始める。」
「…分かりました。」
話とはきっと書物のことだ。
そう考えると足早に風呂場に向かった。