殲-sen-
「―――っ。」
風呂場で見た場所からそれほどない距離に女の人はいた。
私たちには背を向けている。
私たち遠くの女の人を確認すると、一旦女の人が歩く速度に合わせて距離をとったまま様子を見る。
女の人は此方に気づいていないのか、特に変わらずそのままゆっくりと歩き続ける。
様子が変わらないので、徐々に距離を縮めていく。
と、ある程度の距離になると、ある事に気づいた。
先程までは草木で上半身しか見えなかったが、女の人は何かを持っているようだ。
さらに近づくと、女の人の手元の少し下まで見えるようになる。
もう少し近づこうとすると、ガシッと腕を掴まれた。
振り返ると、檜山さんは目を見開いて一点を見つめていた。
そして私の視線に気づくと、私の手を取って女の人と距離をとる。
檜山さんをよくよく見ると、額には汗が滲み出ていて呼吸も荒く、明らかに様子がおかしい。
どうしたのだろうか?
少しの間その様子を黙って観察し、再び女の人に視線を移す。
そこで気づく。
彼が何を見て警戒しているのか。
私よりも一回り背が高い檜山さんは女の人が持っているものを見たのではないだろうか。
檜山さんを見ると視線は女の人よりも下の方に向けられている。
「…まずい。」
檜山さんの呟きに耳を傾けた。
「どうしたんですか…?」
声のトーンを最大まで落として問う。
すると、檜山さんは何も言わず顎で女の人をもう一度見ろと示した。
その通りに視線を戻すと、丁度女の人が草木の生えていない場所を過ぎる途中だった。
次第に全体が見えるようになり、視線を顔から手元に移す。
さらに降下させていったときに知る。
彼女が持っていたもの。
いや、正確には『引摺っていた』もの。