殲-sen-

きっと彼女は台所に行ったのだろう。
料理を作るのは彼女だからだ。

面倒だと惣菜を買おうとした時に、『今日は私が希咲ちゃんに作ってあげるんだから駄目っ。』と必死に止められた。

由実は昔から料理が好きで、いつも学校の時に持ってくる手の込んだ弁当は自分が作ったのだという。

彼女が料理を作る間は特にすることがなく、どうしようかと思う。

本来なら台所にいって由実と話す所だが、彼女は前に料理を作る姿を見られていると気が散って料理に集中できないと言っていた。

最初は意味が分からず、変なことを言うなあなんて思っていたが、一度だけ彼女の料理中を覗き見た時、その手捌きの速さに驚き、納得した。

彼女は料理に関しては譲れないものがあるらしい。

手持ち無沙汰で、ちらりと鞄の中に入っている携帯を見ても着信のランプは着いておらず、本当にすることがない。

人の家だからか、一人でいると妙に落ち着かず、そわそわしてしまう。

んー。どうしようかなぁ。
……黙ってまた由実を覗きにでも行くか?

そんなことを思って、すぐにやめる。
どうせ話せないし同じことか。

一人居間でゴロゴロするしかない。

そう諦めようとしたとき――――
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