一度目のくちづけは煙草のにおいがした
涙は
たった一滴しかこぼれなかった
わたしがそう尋ねる
徐々に近づく彼の体
彼の瞳にはわたしがうつっている
「知りたい、ですか?」
わたしは、瞳で、知りたいと訴えた。
「教えてあげます」
彼の手がわたしの頬をやさしく包んだ
まただ
彼に見つめられると
吸い込まれてしまいそうだから
目を閉じるしかなかったのだ
二度目のくちづけをかわした
その瞬間
わたしの時は
ゆっくり動き始めた
「これから、ね。美桜さん」
目をそっと開くと
彼は笑って、そう言った
わたしの時が、色づきだす
わたしは
くちづけのあと、季節外れなことを可笑しく思った
煙草のにおいは、消えた
二度目のくちづけは
桜のかおりがした
【完】