zinma Ⅱ
ならば、とレイシアは自分の身体を媒体とした魔術を開発したのだ。
これは、レイシアにしか使えない、いわば『選ばれしヒト』の魔術だ。
レイシアは女神の中の自分の魔力に、指令をだす。
指を小さく動かすような程度の、小さな指令。
しかしそれに女神が反応する。
レイシアが腕を振るうと、そのレイシアの腕を回るようにしながら女神が飛ぶ。
そして手の先まで行ったところで女神が弾ける。
その弾けた女神の緑色の魔力の粒が、大きな竜巻のように四方に散らばり、それと同時に風も四方へ駆けていく。
風が駆けていくのとほぼ同時に、また魔力が集まり女神の形を作る。
その間も強い突風は止まず、木がわずかに倒れるほど、大きな風が世界を走る。
木の葉がざわざわと泣き、驚いた小鳥たちの羽ばたきが聞こえるのでレイシアは少し、悪いな、なんて思う。
その風が予想以上に強くて、寝ていたシギの毛布を飛ばし、さらにシギも驚いて起きる。
だがシギ一瞬驚いた顔をするだけで、すぐに冷静な顔になりレイシアに目を止める。
湖の真ん中に立つレイシアを見つめ、
「…師匠?いまのは……」
と聞く。
その冷静な顔が今は亡き自分の師に瓜ふたつで、それにレイシアの、かつて人の感情であった部分がうずく。
しかしだからといって何か感情が産まれるわけでもなく。
その、確実に人間ではなくなってしまった自分に自嘲笑いをしそうになるが、やめる。
そしてシギを見て笑うと、
「何でもありませんよ。」
と言っておく。
それにシギが不思議そうな顔をするが、それは見ないフリをする。
そして手をかざし指をひょいひょいと動かすと、森に飛んで行ったシギの毛布を風で操り、シギにまたかけてやる。
そして、言う。
「明後日。
明後日、ここを発ちます。」