zinma Ⅱ
木に登るのは、どうやら僕の癖のようだ。
今日も他よりも高い木の太い枝に登って、本を読む。
ぺらぺらと、無関心に、ページをめくる。
この本も何度も読んでしまって、内容も完璧に覚えてしまった。
そこで僕は本を、パタンと閉じる。
上を向いて、目を閉じる。
あの小屋にある本は、全部読んでしまった。
それはおそらく、カリアとファギヌは知らない。
もう半年ほど前に、全部の本を読み終えた。
僕はふたりに気づかれないように、本をひたすら読み進めた。
寝る間も惜しんで。
だって本を読んでいないと。
『選ばれしヒト』がうるさくて。
『選ばれしヒト』がうるさく騒げば騒ぐほど、感情が麻痺し、消えていく。
それはひどく不愉快な感覚で。
だから、ずっと本を読んだ。
戦術を頭に叩き込んだ。
昼間はひたすら修行をした。
いろいろな型を決め、たくさんの魔術を覚えた。
そこで僕は、目を閉じたまま腕を持ち上げ、目の前に魔法陣を描く。
ルミナ族でもない僕が魔術を使えるのは、僕が『選ばれしヒト』で、その身に濃く神の血をひいているからだという。
だからなのか、僕は簡単に魔術が使える。
村を出るときに、見ただけでカリアの魔術が真似できたのも、僕の目には魔術の構成が簡単に見えたから。
そこで描いていた魔術が完成する。
それに、普通の人間なら、何も起きてないように見える。
何も変化しない。
しかし僕には。
『選ばれしヒト』の僕には、見える。
目の前の。
妖精の姿。