zinma Ⅱ
僕は彼女に優しく微笑むと、頭の中で指令を出す。
飛べ。
とたん、『妖精』が飛び上がるのと同時に、強い風が吹き上がり、それに乗るようにして僕の体が浮かぶ。
僕はさらに指令を出し、どんどんどんどん上へ登る。
地面がどんどん離れて行って、あるところで僕は止まる。
そして僕は目を閉じると、飛ぶという指令をゆるめる。
とたんに僕の体は落下を始める。
耳の横を風がかけぬけ、嫌な浮遊感が、僕の腹部を襲うが、気にしない。
どんどん落下し、木にぶつかりかけた、そのとき。
また僕は『妖精』に指令を出し、ふわり、と風が体をつつむ。
ゆっくりと、枝に下りる。
僕はここのところ、暇になると、こうして『妖精』と交流するようにしていた。
『妖精』と通じ合っている間は、なぜか『選ばれしヒト』の声が小さくなる。
どうやら魔術と『呪い』は、合反するものであるらしい。
そこで僕は『妖精』を消す。
その姿が細かい霧の魔力にぱっと分散し、消える。
また『選ばれしヒト』が騒ぎ出す。
だがもう、以前ほど感情が消えるような感覚はなくなった。
もう感情は残っていないのかもしれない。
それにすら、何も感じない。
妙な感じだ。
と、そこで。
「レイ。」
と呼ばれる。
ファギヌの声だ。
だが声しかしない。
僕が森の奥に行ったときは、カリアもファギヌも、この魔術を使って僕を呼ぶ。
空気を振動させる魔術。
「ごはんだって。帰っておいで。」
また聞こえる。
それに僕は、同じ魔術で答える。
それから僕は本を左手に持って、右手だけで木から降りると、小屋に向かう。
穏やかな風が吹き、ここ最近伸びてきたプラチナの色をした髪が、さらさらとなびく。
それに一度、んーっと伸びをして、
「今日は気持ち良いなあ。」
適当な感情を口にして。
悲しく笑った。