zinma Ⅱ




レイシアの魔術が消えたのを感じる。





それだけで、少しさみしくなる。



そんなカリアの肩を、ファギヌは抱いた。




「………ついに、来たね。」


と言う。



それにカリアはゆっくりうなずく。
頭をファギヌの胸にあずける。


それにファギヌが、肩を抱く手に少し力をこめる。


「……大丈夫だよ。」





それにカリアが、目を閉じる。


そしてゆっくりと、話し始める。



「……私は、平気だ。
ただ………」


と、そこでカリアの紺色の瞳から、一筋の涙がこぼれる。



ここ7年間、レイシアには一度も見せたことのない涙。

それどころか、弱みなんか見せたことがなかった。



だがその7年の間に、ファギヌだけは、何度も彼女の涙を見てきた。


その涙を、いつものようにファギヌは、優しく指でぬぐう。


「レイが…………」



そこでもうカリアは耐えられなくなる。


ファギヌの服をつかむ。



「これからあの子に………つらいことを………」


とそこまでで、ファギヌはカリアを、きつく抱きしめる。





「………大丈夫。大丈夫だよ。」


大丈夫じゃないのに。

大丈夫じゃないとはわかっているけど、愛する人をなだめるために、ファギヌは言う。



もうカリアは何も言わない。


ただファギヌの背中に手をまわし、背中の服を握りしめる。



その姿はまるで子供のようで。

いつもはだれより冷静で、強気なのに。




そのカリアを抱きしめ、頭をなでながら、ファギヌは思う。



この人を抱きしめる感覚も、もう………


それにまた抱きしめる力を強くする。


少しきついかな、と思うけど、カリアも同じように力を強める。




いつか来るとはわかっていた、今日。


ずっと先伸ばしにしてきた、今日。


もう来ないだろう、明日。


大切な、レイシア。


そして、愛する人。




それらを考え、ファギヌの頬を、涙がつたった。





< 18 / 104 >

この作品をシェア

pagetop