zinma Ⅱ
レイシアの魔術が消えたのを感じる。
それだけで、少しさみしくなる。
そんなカリアの肩を、ファギヌは抱いた。
「………ついに、来たね。」
と言う。
それにカリアはゆっくりうなずく。
頭をファギヌの胸にあずける。
それにファギヌが、肩を抱く手に少し力をこめる。
「……大丈夫だよ。」
それにカリアが、目を閉じる。
そしてゆっくりと、話し始める。
「……私は、平気だ。
ただ………」
と、そこでカリアの紺色の瞳から、一筋の涙がこぼれる。
ここ7年間、レイシアには一度も見せたことのない涙。
それどころか、弱みなんか見せたことがなかった。
だがその7年の間に、ファギヌだけは、何度も彼女の涙を見てきた。
その涙を、いつものようにファギヌは、優しく指でぬぐう。
「レイが…………」
そこでもうカリアは耐えられなくなる。
ファギヌの服をつかむ。
「これからあの子に………つらいことを………」
とそこまでで、ファギヌはカリアを、きつく抱きしめる。
「………大丈夫。大丈夫だよ。」
大丈夫じゃないのに。
大丈夫じゃないとはわかっているけど、愛する人をなだめるために、ファギヌは言う。
もうカリアは何も言わない。
ただファギヌの背中に手をまわし、背中の服を握りしめる。
その姿はまるで子供のようで。
いつもはだれより冷静で、強気なのに。
そのカリアを抱きしめ、頭をなでながら、ファギヌは思う。
この人を抱きしめる感覚も、もう………
それにまた抱きしめる力を強くする。
少しきついかな、と思うけど、カリアも同じように力を強める。
いつか来るとはわかっていた、今日。
ずっと先伸ばしにしてきた、今日。
もう来ないだろう、明日。
大切な、レイシア。
そして、愛する人。
それらを考え、ファギヌの頬を、涙がつたった。