zinma Ⅱ
気がつくと、そこはさっきまでの真っ白な世界ではなかった。
森だ。
いつもの空地。
その周りの光景を確認して、僕は前を見る。
目の前の、2人の師匠。
さっきまでのように、真っ黒な煙におおわれてはいない。
真っ黒な煙は、僕に吸い取られるようにして、師匠たちから僕へと移ってきている。
しかしふたりは、地面に倒れ、苦痛に顔を歪めている。
当たり前だろう。
師匠たちは運よく、この強力な2つの『呪い』と契約するときに、すでに祖先たちがなんらかの『代償』を払っていたために、『呪い』によって何かが失われることはない。
しかし、師匠たちは、『呪い』を有することにより、2つの『呪い』のひとつ、『すべてのものの時を止める呪い』の力によって、契約時に負っていた傷の進行を止めていたのだ。
それはそれは深い傷。
もう助かるはずのない傷。
時を止めたことにより、なんとかふさがっていた傷が、また暴れだす。
だから彼らは『呪い』によって、かろうじて命をこの世に繋ぎとめていた。
しかし『呪い』が僕に食べられる以上、その効果も消え、彼らにその傷も戻ってくる。
いま師匠たちは、黒い煙が僕に吸われれば吸われるほど戻ってくる傷に、苦しんでいるのだ。
戻ってきた傷から止めどなく流れる自分たちの血の池に沈む師匠たち。
僕はこうなることがわかっていて、『呪い』を食べた。
僕は、ふたりのもとに、歩み寄る。
「………師匠。」
そう声をかけると、カリアがゆっくりと顔を上げた。
「レイ………。」
そしてカリアは、その苦痛がないかのように、穏やかにふっと笑うと、
「ありがとう。」
と言った。
どんどんどんどん。
傷が戻る。
血が流れる。
僕はそれを、静かに見る。