zinma Ⅱ
床に描かれた魔法陣を、ゆっくりなぞる。
これを描いた魔術師の気配が、まだかすかに残っている。
それから立ち上がり、一度部屋の中央で、大きく深呼吸をする。
上を向いて、眼を閉じる。
今までと、これからに思いをはせてみる。
しばらくして、僕は部屋の出口へ向かう。
一度、振り返る。
もうここに帰ってくることはないだろう、と思う。
そう思うと、どこかこの光景といままでの7年が、夢の世界のように遠く感じて。
だからこそ、この光景を焼き付けるように、じっと部屋を見つめる。
そして。
部屋に向かって、一礼をして。
もう振り返らないと決めて。
部屋を出た。
僕はもう一度僕の部屋に行き、棚の引き出しを開ける。
戦術を書き込んだいくつかの紙の下。
黄緑色の石を、取り出す。
7年前から、いつしかこの石を握りしめるのが癖になっていたおかげで、いくらか削れ、7年前よりも少し小さくなった、石。
いつか削れてなくなってしまいそうで、いつしかここにしまっておいたものだ。
大好きだった子にもらったお守りの石。
僕が、人間であった証だ。
そこで、あの約束を思い出す。
『化け物だなんて、言わないで。』
『絶対に帰ってきてね。』
どうやら、約束は守れないな、なんて思いながら、少しだけ、期待する。
いつか、帰れるんじゃないか、なんて。
それに眼をふせ、その考えを消す。
首にかけられるように紐を通したその石を取り出し、首にかけながら、僕は部屋をあとにした。