zinma Ⅱ
湖に反射したオレンジ色の太陽の光を受けるその横顔は、ほんとうに美しい。
感情を失った瞳で湖を見ながら、レイシアは答える。
「…あなたはわかっていない。
たしかに今までの私の目的は、あなたを見つけることでした。
でもだからといって、ほかに何もしてこなかったわけではないんです。」
そして振り返り、またシギを見る。
「この道中で『呪い』にも数回出会いました。
そして、食べた。
私の旅はもう始まっているんです。
そしてこの旅は、普通の人間は相いれないものです。
この世にあってはならない存在とだけしか関われない旅。
そしてこの旅の行き着く先は…」
と、そこで言葉を止め、レイシアはまた湖を見る。
何か遠くを見つめるように。
そして独り言のように、続ける。
「人間は人間らしく。
動物は動物らしく。
そして悪魔は悪魔らしく。
化け物は化け物らしく生きるのが、神が世界に与えた宿命です。
それを犯すことはできません。」
そしてレイシアは腕を持ち上げ、自分の手の平を見つめる。
比較的、色白な、きれいな手の平。
だが彼の目には、何が写っているのだろうか。
「私はもう戻れないんです。
それならせめて、化け物として、定められた道を行きます。」
そこでレイシアが振り向く。
シギは、あんなに悲しい微笑みを、今までに見たことがなかった。
「あなたはその魔力さえ失えば、世の理の中に戻ることができるんですよ。
たしかに私のいる世界はあなたの知らないことだらけで、魅力的かもしれない。
でもあなたは必ず後悔する。
理から外れたことを。
神の加護から外れたことを。
だからどうか、考え直してください。」
レイシアの言うことは正しいと思う。
レイシアがいる世界がどんなものか、レイシアが一番知っているのだ。
それはきっと、ただの人間には想像できないような酷い真実にまみれた世界。
だけど。