zinma Ⅱ
足を草に捕まれ、腕を枝に縫い付けられたシギは、動けずにレイシアを見上げる。
レイシアは底の見えない目をして、シギを見ている。
右手を軽く上げていて、上にした手の平の上に、さっきの突風が回るようにして停滞している。
完璧に、魔術を使いこなしている。
レイシアが言う。
「……あなたは弱い。
こういう戦闘にも、まるで反応できない。
そんなあなたが『選ばれしヒト』の従者になると言えるんですか?
ただの足手まといにならないと、言い切れますか?」
レイシアはシギを見つめたまま右手を森のほうに向ける。
すると右手の上にあった突風が森に向かって翔ける。
すぐに戻ってくるが、その風には枝が巻き込まれている。
その風を枝ごとまた右手の手の平の上で遊ばせる。
「この枝をまた同じように放って、首を狙い、あなたを殺すことができます。
ですが、それはしない。
私の役目は、人間を殺すことではありません。
しかし、世界中の『呪い』はそうではないんです。
人を殺して力を付けようとする。
私が『呪い』なら、いまあなたを殺していますよ?」
そう言うとレイシアは風の魔術をとく。
風が力を失い、巻き込まれていた枝が力なく落ちる。
シギの足を捕まえている草に向かって指を指すと、草の力が緩み、足が自由になる。
そしてレイシアはシギに近寄り、シギの袖を貫いている枝を抜き取る。
シギを立ち上がるようにうながし、シギが立ち上がったのを確認すると、からっぽの笑みを浮かべて続ける。
「こういう世界なんですよ。
私のような化け物ばかりがうごめく世界なんです。
簡単に入り込むべきではありません。」
そう言ってから、湖を見つめる。