zinma Ⅱ
その悲しく美しい悪魔を見つめ、シギは思う。
たしかにレイシアのいる世界は理から外れている。
シギだって、『呪い』にかかっていなかったら、一生知ることのなかった世界だろう。
いや、実際そういう人間だらけなのだ。
理に守られた世界の中で生き、真実を知ることなく死んでいく。
それはとても幸せなことだと思う。
どんな生き物でも、結局は自分が手に触れ、聞き、歩く世界でしか生きられないのだ。
自分の知らない世界に触れるのは、怖い。
シギはもうその世界に踏み込んでいるのだ。
レイシアは、シギはまだ戻れると言ったが、それは違うと思う。
もう、遅い。
それに……
「『選ばれしヒト』は、孤独ゆえに死んだ。」
そうシギが言うと、レイシアが振り向く。
少し驚いた顔。
シギは構わず続ける。
「孤独にさいなまれ、耐え切れず、壊れていった。」
レイシアが目を見開く。
「なぜ………それを……」
それを遮る。
「私は弱い。
でも、あなたが最後までやり遂げるために、『選ばれしヒト』の孤独を止めることができる。」
それにレイシアはもう笑っている。
いまにも泣きそうな、笑い。
「そうか………あなたは…」
そうレイシアが言うので、うなずき、答える。
「はい。両親から、知識を受け取りました。」
そう、父さんと母さんから、受け取ったのだ。
ルミナ族が長年貯めてきた『選ばれしヒト』の知識を。
世界のすべてを。