zinma Ⅱ



その悲しく美しい悪魔を見つめ、シギは思う。


たしかにレイシアのいる世界は理から外れている。

シギだって、『呪い』にかかっていなかったら、一生知ることのなかった世界だろう。


いや、実際そういう人間だらけなのだ。


理に守られた世界の中で生き、真実を知ることなく死んでいく。

それはとても幸せなことだと思う。

どんな生き物でも、結局は自分が手に触れ、聞き、歩く世界でしか生きられないのだ。

自分の知らない世界に触れるのは、怖い。


シギはもうその世界に踏み込んでいるのだ。

レイシアは、シギはまだ戻れると言ったが、それは違うと思う。

もう、遅い。



それに……



「『選ばれしヒト』は、孤独ゆえに死んだ。」


そうシギが言うと、レイシアが振り向く。

少し驚いた顔。


シギは構わず続ける。


「孤独にさいなまれ、耐え切れず、壊れていった。」



レイシアが目を見開く。


「なぜ………それを……」




それを遮る。


「私は弱い。

でも、あなたが最後までやり遂げるために、『選ばれしヒト』の孤独を止めることができる。」



それにレイシアはもう笑っている。


いまにも泣きそうな、笑い。


「そうか………あなたは…」


そうレイシアが言うので、うなずき、答える。



「はい。両親から、知識を受け取りました。」




そう、父さんと母さんから、受け取ったのだ。



ルミナ族が長年貯めてきた『選ばれしヒト』の知識を。


世界のすべてを。








< 69 / 104 >

この作品をシェア

pagetop