zinma Ⅱ
村の者たちは驚いていた。
まずシギの身体が成長していたことに。
そしてこの村を発つことに。
だがシギの決めたことならと、送り出してくれた。
今さらながら、この村で育って、よかったと思っている。
レイシアは驚いたようだが、すぐに微笑んで、
「そうですか。」
と言う。
それから夜空を見上げ、いつの間にか真上まで昇っていた満月を見上げる。
シギもそれにつられ、空を見る。
美しい、夜だ。
その月を見上げたまま、レイシアが言う。
「…明日の早朝にここを発ちます。」
それにシギはレイシアを見る。
レイシアもシギの方を見る。
雰囲気の変わった、神秘的な微笑みを浮かべ、言う。
「これであなたはコチラ側の人間。
人の世からは、乖離します。」
それにシギは一瞬だけ顔をしかめ、すぐに戻してから、聞く。
「……それは……」
それにレイシアが言う。
「もちろん、あなたは人間。
私のように、人間でなくなるわけではありませんよ。
ただ、もうこれからコチラ側の世界を見てしまえば、今までの世界を見ることはできない。
たとえ見える景色は同じでも、あなたには、他の人間たちが見ずに済んでいる世界の黒い部分が見えてしまう。
世界は。
あなたが思っているのよりもずっと汚い。
それを一度知ってしまえば、今までのように、世界を美しいなんて感じられなくなります。」
そしてまたレイシアは月を見上げる。
レイシアには、満月も、さっきまで夕日に照らされていた湖も、すべてが美しく見えないのだろうか。
それは、ほんとに悲しいな。
まるで真っ暗な世界に、一人だけ取り残されたようで。