zinma Ⅱ



次の日の朝、まだ日が昇りきる前。

シギとレイシアはもう旅の準備をすませていた。


昨日はそのまま森で野宿をし、そしてまだ暗いうちに起きて準備をした。



森は朝もやのおかげで、3歩先を見ることもままならない。

どこからか鳥のさえずりと、羽を羽ばたかす音だけが聞こえてくる。



静かな、朝だ。



シギは湖のほとりに立って、コートを羽織った。

そして準備しておいた必要最低限の物だけを積めた小さな荷物を持ち、ブーツの中や、袖の中などに、緊急用のナイフを仕込んでおく。

これがこれからの世界の化け物たちに通用するとは、思えないけど。

とりあえず、持っておく。




「準備はいいですか?」


その声にシギは振り向く。

レイシアだ。

にこにこと微笑みながら、こちらを見ている。


「はい。」


とシギが答えると、小さくひとつうなずいてから、

「では、行きますか。」

と言って、歩き出す。



その、自分よりも少し小柄な背中に着いて行こうとして、一度シギは足を止める。


振り返り、湖を見る。



その美しい、静かな湖面を見つめ、心の中で、人の世に別れを告げる。

美しい世界を、眼に刻む。



だれかがこの世を美しいと言った。


だれかが世界を素晴らしいと言った。



だがそれは、どの世界のことだろう。



人の世のことだろうか。

人のいない、大自然のことだろうか。



それとも。


神々のはびこる、世界のことなのか。




そこでシギは前を向く。


この世で一番美しいと思える少年の背中を。

世界から外れてしまった悪魔の背中を。


産まれながら、一番汚い世界に生きる、一番美しいモノの背中を。


追いかけた。








世界が。


ぐるぐるぐるぐる。



変わり始めた。








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