zinma Ⅱ
「ありがとうございました。」
と軽く一礼をしてから、シギは自分の服に着いた砂を払う。
村を出るときに、村のものたちからもらった服。
伝統の刺繍が所々施され、暗い朱色と黒に近い紺色に染められた、動きやすい服。
あの村に伝わる、旅をするときの服なのだとか。
その様子を見ながら、にこにこといつものように微笑みながら、レイシアが口を開く。
「その身体にも慣れてきたみたいですね。」
それにシギは顔をあげ、はい、と答える。
レイシアは腰に軽く手を当てて背筋を伸ばすように立っている。
「体術も、この数日で訓練したにしては異常な成長っぷりですね。
その戦闘能力もご両親から受け継いだ血でしょうか。」
と言って小さく笑う。
レイシアはシギの両親の弟子だ。
産まれてすぐに両親の手から離れたシギよりも、長い時間をシギの両親と共に過ごし、彼らはレイシアを自分たちの子供として愛し、またレイシアも彼らを師匠として慕っていた。
そのレイシアの言葉にシギは誇らしく思う。
シギは自分の両親を、誇りに思っているから。
だからシギも微笑みながら、それに答える。
「ありがとうございます、師匠。」
それにレイシアは少し困ったように顔を歪めながら、
「ですから、その師匠って呼ぶのやめてください。」
と言う。
シギはこの修業が始まってから、レイシアのことを師匠と呼んでいた。
シギとレイシアは、共に16歳である。
だがシギはレイシアに力を授かる身である。
シギは好んで、レイシアを師匠とあがめている。
人としても。
体術でも。
そして、
魔術でも。
シギが師匠と呼ぶ度に、レイシアは困ったようにそういうので、今回もシギは、すみません、と言って軽く礼をするだけですます。
それにレイシアもまだ少し困ったようにしながら、
「まあいいですが。」
と、ため息をつきながら言う。