もうひとつの卒業
「美鈴さんのお父さんが来たの」

早苗は誰もいない空間に向かって、応えた。

ふわふわと、今にも消えて無くなってしまいそうな声だった。

早苗の存在そのものも、希薄になってしまいそうなくらい、細く、危うい声だった。


「怒っていたわ。

ものすごく。

何度も謝ったんだけど、許してもらえなかった」

早苗の声は、定規を当てたみたいに抑揚が無く、目は焦点が定まっていなかった。

拓馬はうなずくだけで、何も言葉が出てこなかった。


そしてどうしたら良いのか、全くわからなかった。
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