もうひとつの卒業
早苗はさらに言葉を続けた。

「その前の日も、そのまた前の日も、毎日何人もの人が来たわ。

知っている人も、知らない人も。

みんな、色んなものを置いて行った。

汚い言葉や、汚い物。

どれも仕方の無いもの。

私が犯した罪に比べれば、取るに足らない事よ。

誰にどれだけのことを言われても、されても仕方がないわ。

でも、私の父や母に罪は無い。

私をここまで育ててくれた両親には何の落ち度も無い。

それなのに、彼らは父や母を傷つけた。

誰がどうやって調べたか解らないけれど、傷つけた。

それでも黙って耐えなければいけない事実って何?

私はもう、居ちゃいけない人間なのよ。

この世に居てはいけない人なの」


早苗はそこまで話すと、大きなため息をついた。

それは何処までも深く、落ちて行った。


拓馬は、弱りきった早苗の肩を抱いた。

小さくなっていた。


それは今にも壊れてしまいそうだった。
< 191 / 235 >

この作品をシェア

pagetop