もうひとつの卒業
「ガチャ」

という音が部屋を占領し、やがて潮が引くように静かになった。

そして早苗が出てきた。

目に一杯の涙をためて。



「子供が出来ていたみたい」

と、早苗は小さく言った。

「うん」

と、拓馬も小さく答えた。

それは、高校生同士の会話みたいだった。

無垢で無防備な高校生カップルの終焉を知らせるような会話。


あと何年かすれば、甘酸っぱい思い出にでもなりそうな台詞。

でも、それは二人の運命を左右する重要な台詞だった。

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