もうひとつの卒業
拓馬はゆっくりと早苗の中に入って行った。

とても自然だった。

ここが正しい場所なのだと思った。

長い間の緊張を開放し、リラックスした。

この世の中に二人しか居ない気がした。

そう考える方が自然な気がした。

深い洞窟の奥に、二人だけが存在し、明けない夜をいつまでも過ごしているような錯覚に捕らわれた。


そしてもちろんそれは、錯覚だった。


拓馬は一人で寝るベッドで目を覚まし、部屋に一人で居ることを確認した。

どれだけ探しても、早苗の痕跡さえ見つからなかった。

< 228 / 235 >

この作品をシェア

pagetop