もうひとつの卒業
拓馬は下宿に帰ると、デジカメのデーターをパソコンに移した。


早苗の顔が、ディスプレーに大きく映し出された。


シンプルな顔だと思った。

特に人目を引くような美人ではない。

かと言って、決してブスでもない。

泣いている訳ではない。

涙で瞳を潤ませている訳でもない。


しかし、そこには「悲しみ」そのものから、淵の底に引き込まれそうなくらい、息が詰まるほど訴える切なさがあった。


そのもやもやした感情の塊を、十七歳の拓馬に理解することは、そのときは出来なかった。
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