もうひとつの卒業
「何があったんですか?」

拓馬は心配でたまらかった。

誰かに暴力的にたたきつけたような傷。

それは、絆創膏を張った上からでも容易に想像できた。


「何もないわ。

何も。

何も出来なかった。

あなたたちに、何もしてあげられない、無力な人間なのよ。私は」


そう言うと、早苗はうつむいたまま涙を流した。


拓馬は何も出来ずに、何も言えずに、ただ、ボタボタと落ちる涙の音を聞いてるだけだった。


「僕も無力です。

先生の涙を止められない」


拓馬はそう思ったけど、何も言えなかった。
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