パレット
毎朝、体育館棟の階段から美術室に向かう。
絵の完成まではもうあとちょっと。
月水木の朝は、神林くんが朝練してることもわかった。
教室で話す機会は増えないけど、朝は、どちらか気付いたほうが声をかける。
そんな密やかな、声には出さないルールがあるみたいに。
今日は木曜。
やっぱり、階段をあがる途中からバスケットボールと、キュッと鳴るバッシュの音が聞こえてくる。
でも今日は、神林くんひとりではなかった。
知らない、他の男バス部員と1on1の最中だ。
一瞬だけその姿を目にとめて、今日は話しかけないことにした。
楽しそうに練習してるし、邪魔したら悪いよね。
そのまま前を通り過ぎようとすると
「笠原! はよ!」
背中に、神林くんの元気な声がぶつかってきた。
「お、はよう!」
ついつられて、大きな声で返しちゃった。