パレット
槙十に、やわらかく抱きしめられる。
「……ずっと前から、好き」
「先越された。どうしよういつ言おうって考えてた」
「えぇ? そうなの? 早く言ってくれればいいのにー」
冬服のブレザーも、2年目でこなれて、もう固くない。
抱きしめられるって、すごく、安心するんだ……。
「弥白の態度が、俺のこと好きな風に見えたり、それは自過剰だろって自分で否定したり、いちいち振り回されて自信が持てなくて」
「わたしだってそうだよ! ……わたし、好きな人ができたの、初めてだもん。どうすればいいかわかんなくて」
「まじで? うわ、それ、俺まじヘタレじゃん。弥白に言わせちゃった」
「い、言うつもりじゃなかったんだけど……なんか、ぽろっと」
キーンコーンカーンコーン……
いつものチャイムが、教室に響く。
でも、もういつものチャイムに聞こえない。
槙十が腕を緩めて少し離れ、視線を合わせた。
「俺と付き合ってくれる?」
「……うん!!」
夢みたい。
夢みたい夢みたい夢みたい。
でも、わたしたちは、たしかにここにいるよね?
わたし、槙十の彼女になれたんだよね?
こんなに嬉しいことって、他にないよ!