パレット
絵は、ようやく完成した。
仕上げに、全部が乾いてから白をのせる。
きれいな筆で、決して他の色と混ざってほしくないところだけ、ゆっくり。
細く、太く、やわらかく粘りのある液体を重ねていく。
来週に入ったら、衣替え。
ブレザーを着なくてもよくなって、白いシャツの季節がくる。
実際にはネクタイもあるし、女の子はベストを着たり、男の子も下に色のシャツを着たりするけれど、わたしは白が似合うこれからの季節が好き。
「うん、いいですね」
千里先生が、絵をしっかり乾かすために準備室に運びながら、そう言ってくれた。
今回の絵は自分でも気に入っている。
青かっただけのキャンバスは、今は海と空を成し、砂浜と少しの木と、白い家も。
「いつになく明るい絵じゃないですか?」
「ん……そう言われれば、そうですね」
顧問だけあって、よく見てくれている。
「いい変化だと思いますよ。このまま勢いに乗って、夏休みには大作を仕上げてください」
「えぇー? 大作なんて」
絵の具や粘土の匂いが染みついた準備室に風を通すため、窓を開けると、遠くの空に入道雲に近い立体的な白いかたまりが見えた。
こうやっていつの間にか、夏になるんだなぁ。