パレット
「笠原、終わりそう?」
準備室に作りかけの彫刻を片付けていると、後ろから声をかけられた。
もう、顔を見なくてもわかるようになった、神林くんの声。
意外なことに、神林くんも美術選択なのだ。
「うん、多分。神林くんは?」
ついでに、この間完成させた絵が邪魔になりそうだったので移動しながらきいてみる。
今週末には搬入予定なんだ。
「げっまじか! さすがー。俺、けっこうヤバいかも」
「あらら。難しいデザインにしたの?」
「いや、そうでもないと思うんだけど……ほら」
そういって見せてくれた彫刻は、十分難しそうだ。
「神林くん、器用だね! それ十分難しいと思う」
「え、そう?」
見かけによらず(失礼)手先が器用みたい。
ちなみにわたしは絵が描きたくて美術部に入ったから、彫刻はそれほど得意じゃない。
だからなるべく、彫るのが簡単で、見栄えのする構図にすることに力を入れた。
「そっかぁーもっと簡単なのにすればよかったかぁ」
神林くんはわたしの言葉を受けて、ひとまず作りかけの作品を片付けながらぶつぶつ言っている。
その様子はなんだかかわいくて、
「でも、もし終わんなかったら放課後やりにくればいいよ。いつもわたしと先生しかいないし」
むしろ、来ないかな? なんて、少しだけ思いながら、言ってみた。