パレット
「めっちゃびっくりしてやんの。あれ、先生はいないの? 課題やりに来たんだけど……」
後ろ手にドアを閉めながら入ってくる。
「だ、だって集中してたんだもん……先生なら今日は出張だよ。あ、でも準備室開いてるし、勝手にやって大丈夫だと思う」
「あ、ほんと? さんきゅー」
神林くんは作りかけの彫刻を持ち出してきて、わたしの隣に座った。
「今度は何作ってんの?」
「これは、弓美の誕生日プレゼントで」
「あいつ誕生日なんだ? ってか自由だな、部活でそんなん作ってていーのかよ」
そう言って呆れ顔で笑われた。
「今日は先生いないし、部員はいつも誰も来ないし、いいかなと思って」
「意外。笠原ってもっとお堅い感じだと思ってた」
「えー、けっこういい加減だよ? わたし」
作業は続けながら、話す。
わたしのカラーペンが紙にこすれる音。
神林くんが三角刀で慎重に木を削る音。
たまに風でカーテンが揺れる。
今日はサッカー部の声がよく聞こえてくる。
「あっ、でもほんとに、口はかたいからね? 秘密は、誰にも言ってないから」
「うん」